50代からの地方での「働きがい」を仕事に繋げる:会社員経験を地域で再定義する方法
地方での新たなステージ:仕事に「働きがい」を求めること
50代を迎え、会社員としての長年のキャリアに区切りをつけ、地方への移住や二拠点生活を検討される方が増えています。この時期の仕事探しは、単に収入を得るためだけではなく、「これまでの経験をどう活かすか」「地域にどう貢献できるか」「自分自身が何にやりがいを感じるか」といった、「働きがい」を重視される傾向が見られます。
都市部の組織内で専門性や役職を追求してきた会社員経験は、地方という異なる環境ではそのまま活かせないと感じるかもしれません。しかし、そこで培われた多くの経験やスキルは、形を変えて地域で大きな価値を持つ可能性があります。この価値を再発見し、「働きがい」として認識し、それを具体的な仕事や活動に繋げていくことが、地方での充実したセカンドキャリアを築く鍵となります。
この記事では、50代からの地方での働きがいとはどのようなものか、そして長年の会社員経験をどのように地域での仕事や活動に繋げていくかについて、具体的な視点から解説します。
地方における「働きがい」の多様な形
都市部での会社員生活における「働きがい」は、企業の成長への貢献、自身のスキルアップ、プロジェクトの成功、役職に伴う責任や権限などに紐づけられることが一般的かもしれません。一方、地方における「働きがい」は、より多様で、個人的な価値観や地域との関わりに深く根差していることが多いものです。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 地域貢献への実感: 人口減少や高齢化、地域産業の衰退など、地方が抱える様々な課題に対し、自身の経験やスキルが直接的に役に立つ場面に触れること。地域行事への参加、ボランティア活動、NPOでの活動支援などを通じて、自身の行動が地域の活性化に繋がることを実感する。
- 人との繋がりの深化: 会社組織とは異なる、よりフラットで温かい地域住民との人間関係の中で、お互いを支え合いながら生活・活動すること。都市部のような希薄な関係性とは異なり、顔が見える関係の中で信頼を築くこと。
- 自然との共生: 農業や林業といった第一次産業に携わる、あるいは自然環境を活かした事業に関わることで、都市生活では得られなかった自然のサイクルや恵みを感じながら働くこと。
- 自身のスキル・経験の新たな活用: 会社では一部の業務でしか使わなかったスキルや、趣味として培ってきた特技などが、地域の小さなニーズに応え、感謝されること。例えば、会計経験を地域のNPOの経理支援に活かす、DIYのスキルを地域住民のちょっとした困りごとの解決に活かすなど。
- 複数の活動の組み合わせ: 一つの仕事や活動に限定せず、いくつかの異なる活動(例: 午前は農業の手伝い、午後は地域団体の運営サポート、週末は趣味を活かしたワークショップ開催など)を組み合わせることで、収入だけでなく、多様な経験や人脈を得ていく働き方。これは「ポートフォリオワーク」とも呼ばれます。
これらの「働きがい」は、必ずしも高い収入に直結するとは限りませんが、人生の充足感や精神的な豊かさに大きく貢献する可能性があります。
会社員経験を「働きがい」と仕事に繋げる視点
長年の会社員経験は、地方での新たな働き方・暮らし方において、必ずしも直接的な職種や業務経験としてではなく、より普遍的なスキルや姿勢として活かせる大きな財産です。自身の経験を以下の視点から「再定義」してみることが有効です。
1. ポータブルスキルの棚卸し
特定の業界や会社でしか通用しない専門知識(テクニカルスキル)だけでなく、どのような環境でも活かせる汎用的なスキル(ポータブルスキル)を洗い出します。
- 対人関係スキル: コミュニケーション能力、傾聴力、ネゴシエーション力、人間関係構築力、チームワーク。
- 課題解決スキル: 問題発見能力、分析力、論理的思考力、計画策定能力、実行力、リスク管理能力。
- 自己管理スキル: スケジュール管理、優先順位付け、ストレスマネジメント、継続学習の姿勢。
- 組織・マネジメントスキル: 組織運営、人材育成、ファシリテーション、会議運営。
これらのスキルは、地域のNPOや市民活動団体の運営支援、小規模事業の経営アドバイス、地域イベントの企画・実行、集落の課題解決のための話し合いの進行役など、多岐にわたる場面で求められます。
2. 経験から得た「視点」と「価値観」の認識
会社員として様々な困難や成功を経験する中で、どのような視点を持ち、何を大切にしてきたかを振り返ります。例えば、
- 顧客満足度を高めることの重要性
- 効率化によって生産性を向上させる方法
- 継続的な改善活動の必要性
- 多様な意見を調整し、合意形成を図ること
- 目標達成に向けて粘り強く取り組む姿勢
といった経験から得られた視点や価値観は、地域の活性化や課題解決に取り組む上で、新たな視点や示唆を与える力となります。地域の慣習や既存のやり方に固執せず、長年の経験に基づいた客観的な視点を提供することは、非常に価値のある貢献となるでしょう。
3. 未経験分野への挑戦を支える経験
地方での新たな仕事や活動は、これまでのキャリアとは全く異なる分野である可能性が高いです。しかし、会社員として新しいプロジェクトや業務に取り組んだ経験、変化への適応力、必要な知識やスキルを自ら学び取る姿勢は、未知の分野に挑戦する大きな力となります。
農業、観光、福祉、地域商社など、地域には様々な産業や活動があります。すぐに専門家になれなくとも、これまでの経験で培った「学ぶ力」「やり抜く力」「他者と協力する力」を活かせば、新しい分野でも着実にステップを踏むことができるでしょう。
「働きがい」を見つけ、仕事に繋げる具体的なステップ
自身の経験を地域で活かすイメージが掴めたら、次はその「働きがい」を具体的な仕事や活動に繋げるステップを考えます。
ステップ1:地域を知り、関わる
まずは深く関わろうとする地域のことをよく知ることから始めます。地域の歴史、文化、産業、抱えている課題などを学ぶと共に、地域行事への参加や清掃活動といったボランティアなどを通じて、住民との自然な交流を図ります。ここで「外から来た人」ではなく、「一緒に地域を良くしていこうとする仲間」として受け入れられる関係性を築くことが、後の活動の基盤となります。
ステップ2:関心のある分野を深掘りする
地域を知る中で、自身が特に「これは面白い」「この課題解決に貢献したい」と感じる分野が見つかるはずです。その分野について、関連する書籍やウェブサイトで情報収集を行うほか、実際にその分野で活動している人(地域の農家、NPOの代表者、個人事業者など)に話を聞く機会を持つことも非常に有効です。彼らがどのような課題を抱え、どのような人材やスキルを求めているのかを知ることで、自身の経験との接点が見えてきます。
ステップ3:スキル・経験と地域ニーズのマッチングを考える
棚卸しした自身のポータブルスキルや経験、そして地域で感じたニーズを結びつけて考えます。「私の〇〇という経験は、この地域の△△という課題解決にどう活かせるだろうか」と具体的に検討します。すぐに仕事に繋がらなくとも、まずはボランティアや短期プロジェクトといった形で、試験的に関わってみることも良いでしょう。
ステップ4:小さく始める・試行錯誤する
いきなり大きな事業を始めるのではなく、リスクを抑えて小さく始めることを検討します。例えば、
- 趣味や特技を活かしたワークショップを単発で開催してみる
- 地域のイベント運営スタッフとして関わってみる
- 知人の小規模事業の手伝いを無償または低報酬で引き受けてみる
- 特定の課題について、解決策を考え提案するグループに参加してみる
こうした活動を通じて、自身のスキルが地域でどのように受け入れられるか、どのような改良が必要かなどを肌で感じることができます。試行錯誤を繰り返しながら、自身の役割や提供できる価値を明確にしていきます。
ステップ5:人脈を築き、情報交換を活発に行う
地域での活動を進める上で、人脈は非常に重要です。地域住民、先輩移住者、行政担当者、地域事業者など、多様な立場の人々と積極的に交流し、情報交換を行います。地域の商工会議所が開催するセミナーや交流会、移住者向けの相談会、オンライン上の地域コミュニティなども活用できます。人との繋がりの中から、思わぬ仕事の依頼や協力者が見つかることがあります。
支援制度と信頼できる情報源の活用
地方での仕事探しや新たな活動を始めるにあたっては、様々な支援制度や情報源が存在します。これらを有効に活用することも、「働きがい」を仕事に繋げるための現実的なステップとなります。
- 自治体の移住・定住促進担当窓口: 移住に関する総合的な相談に加え、地域での暮らしや仕事に関する情報提供を行っている場合があります。
- ふるさと回帰支援センターなどの移住相談窓口: 移住全般に関する相談や、全国の自治体情報を提供しています。
- 地域の商工会議所・商工会: 地域経済に関する情報に加え、創業や事業に関する相談、研修会などを実施しています。
- 地域金融機関: 事業資金に関する相談に加え、地域の事業者ネットワークに関する情報を持っている場合があります。
- 地域活性化支援センターやNPOサポートセンター: 地域づくり活動やNPOの立ち上げ・運営に関する情報や相談支援を行っています。
- 国の施策(地域おこし協力隊、特定地域づくり事業協同組合など): これまでの経験を活かして地域で活動するための制度も存在します。自身のスキルや関心に合うものがないか調べてみる価値があります。
これらの窓口に相談する際には、自身のこれまでの経験や、地域でどのようなことに関心があるのか、どのような貢献をしたいと考えているのかを具体的に伝えることが重要です。専門的な立場からのアドバイスや、適切な情報源、人脈を紹介してもらえる可能性があります。
また、ウェブサイトやパンフレットといった情報源だけでなく、実際に地域に足を運び、自分の目で見て、肌で感じ、人々と直接話すことによって得られる「生きた情報」が、自身の「働きがい」を見つけ、仕事に繋げるための何よりのヒントとなるでしょう。
まとめ
50代からの地方での働き方は、長年の会社員経験を土台としながらも、都市部とは異なる価値観に基づいた「働きがい」を見出すプロセスです。地域貢献、人との繋がり、自然との共生といった多様な働きがいは、自身のポータブルスキルや経験を地域ニーズと結びつけ、小さく始める試行錯誤や、人脈構築を通じて、具体的な仕事や活動に繋がっていきます。
焦る必要はありません。地域との関わりを楽しみながら、自身の内面と向き合い、「自分が本当に価値を感じることは何か」を追求していくことが、地方での充実したセカンドキャリア、そして「働きがい」に満ちた人生を築くための最も確実な道と言えるでしょう。まずは一歩踏み出し、地域の活動に少しでも関わってみることから始めてみてはいかがでしょうか。